逢沢疼の海水浴(前編)

 
「どういう・・・・・・ことなの・・・・・・?」

traveler真弓刹那は驚きを隠せなかった。

「どういうことなの? 逢沢さん!」

動揺する真弓に、逢沢は柔らかい笑顔で告げた。

「どういうことって・・・・・・私はtravelerなんだよ。デュエルに関すること以外なら、法律もルールも常識も一切を無視出来る。だから―――――」

傍らの双子たちが、目の前に広がる青い景色に向かって叫んだ。

「ららら、森ガールが!」
「るるる、海に来ても!」
「「いーーーじゃーーーーーん!」」

双子の声が重なった。
真弓は唖然とした顔をしている。

「えと、重要な話があるって言ったのは・・・?」
「うん? どんな水着がいいかって話だよ。もちろん。」
「私・・・てっきり、高見沢くんの件で詰問されるとばかり・・・・・・」

拍子抜けする真弓は、涙ぐんで腰が抜けていた。
修羅場が待っていると身構えたら海水浴。
どういうことかと問いたくなっても仕方ない。

「ねっ? ほらほら、ビーチボールだよ。ぽーん。」

ふわっとした髪型に、フリルのついた水着で、今日の彼女は海ガール。
さんさんと陽の射す空の下、笑顔いっぱい逢沢疼。

「はあ・・・」

スレンダーな体躯をワンピースに包んで、目を伏せて笑う真弓刹那。
投げ返したビーチボールがシャボン玉みたいに飛んでいく。

「ららら、お日様さんさん♪」
「るるる、ざぶざぶ海~♪」

右腕ふたつ、六歌仙ららら。
左腕ふたつ、六歌仙るるる。










みんな、おいしそう。










~逢沢疼の海水浴~


やあ、僕はtravelerの『死神』だよぉ。
田宮さんに僕の正体がバレて大変なんだ。
早く逃げないといけないのに、お腹が空いて力が出ない。
腹ごしらえをする為に、『瞳』に映った食べ物のいる世界へ来た。

ああ、でも、田宮さんって誰だっけぇ?

「きえるーことのないメッセージ♪えいえんにつづく・・・」

寂しげな声が聞こえてくる。
あの後ろ姿は、真弓さん、真弓さんじゃないか。
きっと僕を呼んでるんだね。行かなくては。ばびゅんっ!

太陽が照らす道を小走りで突き進むと、真弓さんが絡まれていた。

「ヘイヘイ、カワイコちゃん!」
「ひっとり~? オレたちとイイコトしない?」

なんたることだ。
どこかで見たような、日焼けした海パン野郎が2人。
真弓さんの腕を掴んで、どこかで連れて行こうとしている。

『待てぇ、痴漢ども!』

「な、なんだ、テメーは!?」
「デッケェおはぎ!? 幻覚か?」

ぬふっ、驚いているようだね。
精神的にリードを奪ったも同然だ。

『灼熱の太陽の下で、可憐な女の子に乱暴する奴は許さんさん!』

決まった!
これは「太陽」と「さんさん」を掛けた、高度なセリフだ。

「チッ、どうやらデュエルするしかないようだな!」
「おれたちがデュエルで勝ったら、その女はいただくぜ!」

『いいぜ、2人まとめて相手してやる!』

れっつ、デュエルぅ!!

『死神』:LP8000

ナンパ男A:LP8000
ナンパ男B:LP8000

『オレのターン。《スナイプストーカー》を召喚するぜ。そして《凡骨の意地》を発動して、ターンエンド。』
「凡骨・・・・・・」

真弓さんが切なげに呟いた。
どうやら北村くんを思い出させてしまったようだね。
もうすぐ会えるから楽しみにしていてね。
声こそ僕のままだけど、口調を北村くんに寄せているの気付いてる?

「おれのターン! 真夏の爆弾《ブラック・ボンバー》召喚だぜ!」

墓地に蘇生対象もいないのに、《ブラック・ボンバー》を?
真弓さんも怪訝な顔をしている。

「へいへいへーい、今のプレイングの意味が分からないようじゃ、まだまだだぜ? 《機械複製術》発動! デッキから2体の《ブラック・ボンバー》を呼び出すぜ! 後は任せた!」

なるほど、《ブラック・ボンバー》の攻撃力は100ポイント。
攻撃力500以下だから、複製できるんだ。
モブにしては考えたねぇ。

「よーし任せとけ! エクるんこと《カードエクスクルーダー》召喚! ここに効果モンスターが4体揃った! リンク召喚、《ヴァレルガード・ドラゴン》!」

まぁ、そう来るよね。
僕の場には《スナイプストーカー》がいるからねぇ。

「さあ、お前のターンだぜ、ジャイアントおはぎ!」

ジャイアントおはぎ・・・そんなモンスターいたっけ?
僕は覚えてないけど、忘れてるだけかもしれない。

『オレのターンだなぁ、ドロー! 《メカ・ハンター》! ドロー、《デーモンの召喚》! ドロー、《ワイト》! ドロー、《キング・スモーク》! ドロー、《十三人目の埋葬者》! ドロー、《眠り子》! ドロー、《青眼の銀ゾンビ》! ドロー、《森の屍》! ドロー、《サキュバス・ナイト》! ドロー、《死神のドクロイゾ》! ドロー、《ガーゴイル》! ドロー、《ゾンビランプ》! ドロー、《骨ネズミ》! ドロー、《ロックメイス》! ドロー、《死の沈黙の天使ドマ》! ドロー、《カードを狩る死神》! これで打ち止めか。』

うふふ、僕の狙いが分かるかな?
これだけあれば、コストには困らないってことだよ。

『ダイスロールの時間だぜ。《スナイプストーカー》の効果を発動!』

手札16枚を捨てて、闇の弾丸を撃ち込んでやりなさい!

4! 2! 3! 6! 2! 3! 2! 3! 5! 6! 2! 4! 6! 4! 1! 1!

だはははははーーー!!
ガトリングだっひょーーー!!

・・・・・・おおっと、少々キャラが崩れてしまったねぇ。
僕は自分のキャラさえも忘れがちだ。うっかり、うっかり。


「へいへーい、無駄だぜ! 《ヴァレルガード・ドラゴン》は効果で破壊されない! おれたちのリボルバーは暴発寸前、いつでもギンギンだぜ!」

んん~~? 何か聞こえてきたよぉ。
きっと対戦相手の声だ。


ヴァレルガード・ドラゴン リンク4 闇属性・ドラゴン族・リンク
攻撃力3000 【リンクマーカー:上/右/下/右下】 効果モンスター3体以上
(1):このカードは効果では破壊されない。
(2):1ターンに1度、自分の魔法&罠ゾーンのカード1枚を墓地へ送って発動できる。
このターンに破壊され自分または相手の墓地へ送られたモンスター1体を選び、
効果を無効にして自分フィールドに特殊召喚する。
(3):1ターンに1度、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを表側守備表示にする。
この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。
この効果は相手ターンでも発動できる。


『だったら破壊せずに除外すればいいんだろ? 《スナイプストーカー》を生贄に、《邪帝ガイウス》召喚だ。』

「おれたちのリボルバーが!?」
「くそっ、だったら第3の効果でガイウスを守備表示だぜ!」

《ヴァレルガード・ドラゴン》 (除外)
ナンパ男A:LP8000→7000

『そうだろうな。だからオレは、たくさんのコストを墓地に送り込んだんだ。《二重召喚》かーらーのー、出でよ、《闇王プロメティス》!!』

闇王プロメティス レベル4 闇属性・悪魔族
攻撃力1200 守備力800
このカードの召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する闇属性モンスターを任意の枚数ゲームから除外する。
このターンのエンドフェイズ時まで、この効果で除外したカード1枚につき、
このカードの攻撃力は400ポイントアップする。


《闇王プロメティス》 (攻1200→8000)


「へいへいーい、冗談きついぜぐあああああああああああああ!!」

ナンパ男A:LP7000→0

『当然、《闇からの奇襲》発動。もいちど攻撃ぃ♪』

「うそだろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

ナンパ男B:LP8000→0


こうしてデュエルは、僕の圧倒的勝利で終了した。
まったくもって文句のつけようがない勝利だ。

ん? 手札誘発の防御カードがあったら分からなかったって?
ちっちっち、これだから素人さんは困るなぁ。
その場合は、ありったけのカードで防御陣形を敷くんだよぉ。
次のターンで“美食の宝札”が火を噴くだけのことじゃないか。

おっと、そんなことより真弓さんだ。
レディを置いてけぼりにするのは僕の主義ではない。

『じゃーん、オレでした!』

僕は爽やかすぎる笑顔で話しかけた。
誰かに話しかけるときの、僕のモットーだ。

「北村・・・くん・・・?」

そう、僕は北村くんの姿をしている。
何故なら僕が北村くんだからだよ。
黒いフードを被ってるのは気にしなくていいよぉ。

「北村君・・・。本当に北村君なの・・・?」
『当たり前だろって言いたいけれど、まあそれもそうだよな。他のトラベラーの間じゃ、オレは田宮と戦って死んだことになっているはずだからな。』
「北村君・・・! 良かった・・・! 生きてて・・・!」

抱きつかれる感触がした。
おふぅ、真弓さんが僕に縋りついてきたらしいよぉ。

「北村くん、北村くん、北村くん!」
『ま、真弓・・・』
「悲しかったんだよ! 北村くんが死んだって聞いて、胸が張り裂けそうで、死んじゃいたくて、でも死ねなくて、生きてて良かった・・・良かったよ・・・!」
『オレも、会いたかった。真弓に会って、あの続きを聞きたかった。』

そうだよぉ真弓さん、北村くんは死んでなんかいない。
こうして僕の中で生きてるんだからねぇ。

「あの続き・・・・・・あっ?」

どういうわけか、真弓さんが真っ赤になって俯いてしまった。
もじもじしちゃって、可愛い。青春だよぉ。
こんな可愛い真弓さんを、裏切るわけにはいかないよねぇ。

「と、ところでさ、そのカッコ、どうしたの・・・?」
『やっぱ気になるよな・・・。こいつはバイオメタル・カプセル。みてくれは悪いが、声も口調も変えてくれる優れもんなんだ。ちょっとヤバい奴に追われててな。』

僕は、ぽりぽりと頬を掻いた。
本当に自分が北村くんになったみたいだよぉ。
だって僕は北村くんなんだからねぇ。

『悪いな、心配かけちまって・・・。』
「ううん、いいの。北村君が生きてたのなら、それで・・・。」

月明かりに照らされて、真弓の頬がキラリと光る。

『それでなんだけどな、真弓。実は真弓に頼みがあるんだ。』
「頼み・・・?」
『ああ、真弓にしか頼めないことなんだ。今夜、岬の端まで来てくれねえか?』
「み、岬の端っ、それって・・・こく、はく・・・スポット・・・」
『へ?』
「ななな何でもない! 今夜、絶対、絶対、行くからね!」

うふふ、目が蕩けているよぉ。胸が高鳴っているねぇ。
俯き加減の、はにかんだ紅潮が、とっても可愛い!
僕のことを全面的に信頼してくれているんだねぇ。
早く僕のことを思い出させてあげたいよぉ。


「真弓さん、どこ行ってたの?」
「えへへ、秘密。」

「ららら、なんか元気そう。」
「るるる、これは乙女の予感。」
「ななな、何を言ってるのかな、こまっしゃくれた君たちは!?」

「お相手は、高見沢くんかな?」
「な・・・なんのこと。」
「隠さなくてもいいじゃない。それとも鹿賀くん?」
「ららら、愛があれば!」
「るるる、歳の差なんて!」

「ち、違うから。私が好きなのは・・・」
「ららら、好きなのは?」
「るるる、好きなのは?」
「わざとらしく耳を傾けないでよ!」

「んー、単独行動は構わないけど、こまめに連絡は入れてね。」
「・・・うん、わかってる。私は、弱いから。」


そうだねぇ、世界は危険でいっぱいだからねぇ。
僕が絶対安全な世界に匿ってあげるよぉ。
うふふ、今夜が楽しみだなぁ。



- - - - - -



岬の端は、遠くから見ると顎みたいに尖ってる。
うんうん、絶景だねぇ。

おっと急がなきゃ。レディを待たせるのは僕の主義じゃない。

『悪ぃ、真弓、ちょっと遅れちまった!』

黒百合の刺繍をあしらった、可憐な浴衣姿。
めかしこんじゃって、そんなに僕のことが好きなのかぁ。
うんうん、とても良いよぉ。

「大丈夫だよ。私も来たばっかりだから。」

後ろ姿から発せられるのは、綺麗だけど、どこか悲しい声。
真弓さんの声を聞いていると、何か大切なことを思い出しそうになる。

ゆっくりとした時間が流れる。
昼間の喧騒が嘘のようだ。

『つか、ここ、思ったより寒いな。』
「じゃあ、君が温めてくれる?」
『なな、なに言って・・・』

吐く息が白い。
月光を反射する浪間を背景に、真弓さんが僕を振り返る。

「そんなこと言わないで、温めてよ・・・・・・」


彼女の


目は





「・・・・・・死神さん」



見たこともないほどの憎悪で爛れていた。






逢沢疼の海水浴(中編)







2019.08.16 | 未分類

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