第32話「青の楽園の世界」エピローグ
真弓の目の前には、青空のもとに一面の草原が広がっていた。
「ありがとう、田宮さん。 彼の生きた証を大切にしてくれて」
風が真弓の背を押す。
「ありがとう、高見沢くん。 私の在り方を肯定してくれて」
一冊の本を手にしたまま、真弓は歩みだす。
「ありがとう、北村くん。 私は私として戦うよ」
彼女は”逃げ専”のtraveler。
これからもまた、逃げ続けるのだろう。
けれど、今の彼女の逃げは逃避ではない。
いずれ勝つための逃げであり。
世界を巡るための逃げである。
――青の楽園の世界
「ああ疲れたー……」
高見沢の周囲には、白い砂漠のような光景が広がっている。
正しくは、砂ではなく灰だ。
朽ちた異形の成れの果て。
かつて”神”と呼ばれた物。
それを踏みしめる足音。
「よお、高見沢」
それは、あるはずのない存在。
「死にかけって感じだなあ! 上位のエリートさんよ!」
高見沢の目線の先にある、人影。
「”神”が顕現している最中にこの世界を補足して、しかも潜り込むとは驚いたよ。 えっと……名前なんだっけ」
男は、不快感を露にする。
「相変わらずだなお前はよ……覚えとけ、俺は剛田だ」
すでに死んだはずの男は、歩みを早め、高見沢に近づく。
「ああ、思い出した。 生憎と、君に渡す”神”は無いよ?」
近づく剛田に対し、高見沢は動かない――否、動けない。
「俺の狙いはあのバケモノじゃなくてよ、カード1枚握れねえ死にぞこないだ」
高見沢は死にかけている。
両足と右腕は無く、残る左腕も折れ曲がり、腹部と頭部から血が滴っている。
「一つ、君に伝えたいことがあるんだ」
高見沢の言葉を他所に、剛田は銃型デュエルディスクを片手に構える。
「言葉を選べよ、それが最期に言い残すことになるんだからなあ」
剛田は笑みを浮かべ、銃口を高見沢の頭に向ける。
「お前じゃ田宮さんに勝てないよ……死神」
高見沢は不敵に笑い――
「そうかよ」
死神は引き金を引いた――
美しい星があった。
僕はその輝きを守りたかった。
考えて考えて、足掻いて足掻いて。
けど、それは要らなかった。
その星は、とても強く輝いていたから。
雲に隠れようと、あの星を見失うことは無い。
それを知れただけで、僕はもう満足だ。
だから、僕は舞台を降りる。
ああ……頑張りすぎて、眠くなってきたなあ。
残骸の中にただ一つ残る影。
不定形な黒い体に、1つの仮面。
『高見沢君も、僕を『思い出しして』くれたんだね。 はははは!』
ただ、笑い声が響く。
『力が溢れる……凄いよ高見沢君! これが上位の力か! あははは!』
死神の体が捻じ曲がり、細長いバネの様になる。
『あははははははは!』
そして、弾けた。
死神が世界を渡るポーズであり……この世界に、生命が消え失せた瞬間であった。
高見沢蓮は死んだ。
だが、高見沢の遺産は確かに受け継がれた。
そしてその遺産は、travelerの戦いを狂わせることとなる。
――佐藤心愛の世界
「どおゆうことだろ?」
首を傾げる佐藤心愛。
彼女は《青の楽園の世界》での戦いを観察していた。
何が起ころうと決して介入しないという高見沢との取り決めで。
「《青の楽園の世界》が、生き返ったのかな?」
《青の楽園の世界》から死神が去った直後。
彼女の見ていた《青の楽園の世界》の時間座標が大きくずれた。
数千年前、世界から人類が滅亡する前に。
より正確に言うなら、高見沢の渡航による影響が消え、”神”の誕生が無くなった状態だ。
「あれは並行世界だったのかなあ? 世界は頑張っても自殺できないってこと……白姫君みたいに?」
佐藤は首を傾げるが、答えが出ることは無かった。
「青の楽園の世界」(設定解説)
2019.04.09 | コメント(7) | 未分類
